(本物の)ビラがパズルになってます

「萌えってえ、もんはな」
お猪口を口に運んでいた手を止めて、源さんはそう切り出しました。
「思うところは人それぞれだろうから、もちろん私見に過ぎねえんだが。。。オレに言わせれば、『自分はこれが好きだ』という感情を、対象そのものが持つ特性だとレッテルを貼る、極めて独善的で我儘な感情だな」
それは、その考え方そのものが独善的で我儘だと思うのですが。
「独善的で我儘であることが、表現者として悪いといった覚えはねえぜ。友達にはいてほしくねえがな」
源さんは苦虫を噛みつぶしたような顔になりました。とはいうものの、こういう表情をしている時の源さんが必ずしも機嫌が悪いというわけではないということが、最近私にはだんだん判ってきていました。
「でだ、パズル作家ってもんはな。。。これも人それぞれ、目指すところは違うだろうから、『オレの好きなパズル作家』ってもんはな、ってことにしとくが、『これがオレの思う面白いってことだ。どうだい、面白いだろう?』と解き手に自分の思惑をぶつける、これまた独善的で我儘な生き物だ。特に、パズルってやつは、数理的なルールを前提にしている場合が多いから、自分の思惑を相手に押しつける影響力の強さって意味で、よりタチが悪いや」
はあ、、、あの、いまいち話の行き先が判らないんですが。
「つまりだな、萌えとパズルは融合しねえ。互いが互いの主張するところをその主張によって潰しちまう。パズルを優先させて萌えが単なるラベルになり下がるか、萌えを優先させてパズルが骨抜きにされちまうかだ。もう一度言うが萌えとパズルは融合しねえ。普通はな」
普通はということは、普通でないものなら萌えとパズルは融合するということですか。
「なにを言ってやがる。こねえだおめえが置いていったんじゃねえか」
源さんはなにやらカラフルな表紙の本を取り出しました。あ、それ、源さんのところに忘れていったのか。
「これ見よがしに署名の入った本なんか置いていきやがってヨ」
源さんは裏表紙をつまんでひらひらと振ります。わざわざ『よん様へ』と入れてもらった著者のサインが見え隠れしています。
「成り立たねえはずのことを、出題者みずからが萌えキャラと化すことによって成り立たせやがった。こいつ、ただもんじゃねえな」
あ、それぼくも言いましたよ。この本で一番の萌えは東田さんだって。総スカンを食いましたけど。
当たりめえだ」
と源さんは笑います。
「この本を読んで、パズルを解いてもらって、最終的に至ってほしい結論がそれだろ? 順序ってもんを無視しちゃいけねえ。不粋って奴だ。ほら、たとえばQ19の女医なんてどうだ? Q29のシスターは?」
源さんお姉さんタイプに弱いんですね。。。それはそうと、萌えとパズルが並び立たない、という源さんの前提を全面的に認めるとしても、出題者が萌えキャラになることでそれが解消できるかには、かなりのギャップがあるかと思うのですが。
「そこだよ。それが成り立ってしまうんだから」
と、源さんは目を逸らします。庭先の松の木を見ているようです。
「萌えってやつぁ、偉大だよな」



と、いうことで。
源さんもお薦めの、東田大志さん(チェバの定理さん)著「パズル公爵の挑戦状」。全国の書店(だと思いますが)で絶賛発売中です。
パズルで頭を絞るも良し、萌えキャラを眺めてにやにやするも良し、もちろん本の誘導するとおり、より萌えキャラとの関わりを深めるために、「ようしオレがパズル公爵からの挑戦状に応えてやるぜ!」というのも楽しいでしょう。
楽しみ方満載のこの一冊、みなさまもぜひどうぞ!

え? 私ですか。私はQ42の生徒会長と仲良くするのに忙しいので、パズルなんか解いている暇は。。。