ふくめん算が好きだ。

パズル界にもさまざまな未解決問題がありますが、そのうちのひとつに「ふくめん算のせかいいちかわいいよ問題」というものがあります。正確にはありました。現在この問題は肯定的に解決されています。ふくめん算の作り方の基本的な部分を見る適切なサンプルと思いますので、ここでその軌跡を追ってみましょう。

ふくめん算のルールは、こちら(http://www.nikoli.co.jp/ja/puzzles/hukumenzan.html) からどうぞ。

この問題が提起されたのは2011年7月のことです。

 せかいいち
+かわいいよ
――――――
○○○○○○

という具合に「い」の字がタテに並ぶので、なんか適当に入れればふくめん算として成立すんじゃね? なんか良さげなのないかね? ということですね。

この問題提起に果敢に挑んだのが、机さんという方です。ちなみに机さんはパズル作家ではなく、ふくめん算という表現形式もここで初めて知ったとのことでした。

 せかいいち
+かわいいよ
――――――
 あいしてる

ふくめん算に慣れた方は、すぐ見つかると思いますが、「ち」と「よ」の字が一度ずつしか使われていません。たとえばですが、「ち=2、よ=3」となる答えがあれば、「ち=3、よ=2」となる答えもあることになります。つまり、ここで別解が生じます。
このような状況のことを斯界では、「(「ち」と「よ」が)浮いている」などと表現することがあります。

この指摘を受けての机さんの改作が以下になります。(もう一往復あったのですが事情により省略します)

 せかいいち
+かわいいよ
――――――
そばにいるよ

これに関しても別解が生じるのですが、その解説とされるものがこちら。

twitterの文字数の制限からか、少々変なことを言っています。厳密なところはわかりませんが、なんとか意図を汲み取ってみようと思います。

とりあえず「文頭のせ+か=ばとか+は=にが可換になってます。」は、「文頭の『せ』+『か』=『ば』と『か』+『わ』=『に』が可換になってます。」ですね。

「この言葉の組み合わせは「い」がとても強くて、他の文字の絡みが割と弱いので、文末のち+よ=よでち=0を使ってしまって他に絡みがないのはとても冒険です。」
『ち』=0を問題にしているようですが、どちらかといえば、『よ』が『ち』=0を確定させるためのみに使われており、他で使われていないことを指したいのだと思います。『よ』はそのまま下に降りることしか情報がないので、「他の文字で、それ以外の数字をすべて使ってしまった」ということでしか確定できませんが、これはかなり緩い縛りです。うまく使えば成立させるのに重要な手段になりますが、この場合は緩すぎるのではないか、という指摘なのでしょう。

「結果的に、文頭の『せ』+『か』=『ば』と『か』+『わ』=『に』が可換になってます。」
可換になる例が容易に作れます、が正しいでしょうか。
この問題を見てすぐ確定するのは、『そ』=1、『ち』=0で、少し考えると『い』=9、『る』=8が決まります。残る数字は2,3,4,5,6,7です。3桁目から4桁目への繰り上がりが生じていることもわかりますし、5桁目から6桁目への繰り上がりが生じていることもわかります。ここで、4桁目から5桁目への繰り上がりが生じていると仮定すると、「『せ』+『か』=『ば』」と「『か』+『わ』=『に』」は、下から繰上りがあり、上にも繰り上がるという意味で、同じ役割にすることができます。つまりここをごそっと交換することが可能ということですね。
2,3,4,5,6,7でこのような組み合わせができるかというと、たとえば、「7+6(+1)=4(+10)、7+5(+1)=3(+10)」という組み合わせを作ることができます。つまりは別解が生じるということですね。

おっとこれはパズルには関係なかった。


ふくめん算は作る際に、このような可換性からの別解が生じやすいパズルです。今回の事柄は象徴的に表現すると、縦方向の可換性と横方向の可換性が連続して現れた、非常に教育的な例であると言えるのではないでしょうか。

さて。
冒頭に「現在この問題は肯定的に解決されています。」と書きました。
2011年9月に入ってからのことになります。

・文末のパディングによく使われる「!」を文の途中に持ってきている。
・ふくめん算への「><」という絵文字の導入。
・場合わけをしたとしてもほぼ2択で進められる展開
・「世界一かわいいよ」と言われて、照れてしまって素直になれない乙女心の表現。
と、これだけのイノベーションを重ねて、はじめて解決した未解決問題でした。
まさに、長年ふくめん算作家の頭を悩ませるに値する問題であった、と言えましょう。